ひとり合同会社の定款|実際に作った全14条を条文ごとに解説(事業目的の書き方・会社名と英語表記・公告・業務執行社員・相続人の持分承継・事業年度)
合同会社の定款は、株式会社に比べるとずっと短い文書です。私の定款は全14条・A4で2枚。会社設立サービス(弥生)のひな形に沿って入力しただけで、公証役場の認証もなく、電子署名は提携の行政書士が付けてくれました。
でも、あとから読み返すと「ここは自分で考えておくべきだった」という条文がいくつかあります。この記事では、私の定款を条文の順に読み解きながら、事業目的の書き方(エンジニアの準委任・受託開発・コンサル)、会社名と英語表記、本店所在地、公告方法、業務執行社員と代表社員、退社と相続人の持分承継、事業年度のポイントと、電子定款で印紙4万円が不要になる仕組み、設立後の定款の扱いまで整理します。

まず結論:悩む場所は4つだけ
第1条 商号:使える文字、英語表記を入れるか
第4条 公告方法:官報か電子公告か
相続人の持分承継:一人会社の「もしも」の条項
社員・出資・有限責任
業務執行社員・代表社員(1人なら定型)
社員の加入・退社
事業年度・計算書類の承認(あとで変えられる)
私の定款の全体像(全14条)
| 章 | 条 | 項目 | 私の定款の内容(要約) |
|---|---|---|---|
| 第1章 総則 | 第1条 | 商号 | 合同会社+会社名。英語表記の定めはなし |
| 第2条 | 目的 | インターネット関連11項目+「前各号に附帯関連する一切の事業」 | |
| 第3条 | 本店所在地 | 「東京都渋谷区」まで(番地なし) | |
| 第4条 | 公告方法 | 官報 | |
| 第2章 社員及び出資 | 第5条 | 社員及び出資 | 社員1名・出資100万円・有限責任社員 |
| 第3章 業務執行権及び代表権 | 第6条 | 業務執行社員 | 1名 |
| 第7条 | 代表社員 | 複数なら互選、1名ならその者 | |
| 第4章 社員の加入及び退社 | 第8条 | 社員の加入 | 総社員の同意による定款変更 |
| 第9条 | 任意退社 | 事業年度末に退社可、2か月前までに予告。やむを得ない事由はいつでも | |
| 第10条 | 法定退社等 | 1項:会社法607条1項の事由で退社/2項:社員が死亡した場合は相続人が持分を承継 | |
| 第5章 計算 | 第11条 | 事業年度 | 毎年2月1日〜翌年1月31日(設立当初。のちに9月決算へ変更) |
| 第12条 | 計算書類の承認 | 事業年度終了日から3か月以内に作成し、総社員の承認 | |
| 第6章 附則 | 第13条 | 最初の事業年度 | 会社成立の日〜最初の1月31日 |
| 第14条 | 定款に定めのない事項 | 会社法その他の法令による |
損益分配の割合・持分の譲渡・社員の報酬の条項はなし(定めがなければ会社法の原則どおり)。末尾に「電磁的記録である本定款を作成し、定款作成代理人がこれに電子署名する」の一文と、作成日・社員名・代理人名。
定款の基本ルール:絶対的・相対的・任意的記載事項
| 区分 | 内容 | 合同会社の例 |
|---|---|---|
| 絶対的記載事項(会社法576条) | 1つでも欠けると定款が無効 | ①目的 ②商号 ③本店の所在地 ④社員の氏名・住所 ⑤社員全員が有限責任社員である旨 ⑥社員の出資の目的と価額 |
| 相対的記載事項 | 定款に書かないと効力が生じない事項 | 業務執行社員の定め、代表社員の定め方、持分譲渡の要件、公告方法、存続期間・解散事由、相続人の持分承継 |
| 任意的記載事項 | 法律に反しない範囲で自由に書ける事項 | 事業年度、計算書類の承認方法、社員の報酬、任意退社の予告期間 |
出典:法務省「合同会社の設立手続について」、会社法575〜577条(e-Gov法令検索)
- 公証人の認証が不要(株式会社は認証手数料が数万円かかる)
- 株式・株主総会・取締役会などの機関設計の条項がない。その分、短い
- 社員(出資者)の氏名と住所を定款に書く。ただし登記簿に載るのは代表社員の住所だけで、社員の住所は載らない
- 定款の変更は総社員の同意(会社法637条)。一人会社なら自分の同意だけで変えられるが、同意書は書面で残す
第1条 商号:会社名のルールと英語表記
| ルール | 内容 |
|---|---|
| 「合同会社」の文字 | 必須。前でも後ろでもよい(「合同会社○○」「○○合同会社」)。「LLC」「G.K.」への置き換えは不可(会社法6条) |
| 使える文字 | 漢字・ひらがな・カタカナ、ローマ字(大文字・小文字)、アラビア数字、「&」「’」「,」「-」「.」「・」。符号は語句を区切る目的に限り、先頭・末尾には使えない(ピリオドは省略を表す場合のみ末尾可) |
| 使えないもの | ローマ数字、カッコ類、「銀行」「信託」など業種を限定する文字、「支店」「営業所」を示す文字 |
| 同一商号・同一本店 | 同じ住所に同じ商号の会社があると登記できない(商業登記法27条)。バーチャルオフィスを本店にする人は、同じ住所に同名の会社がないか事前に確認 |
| 英語表記 | 定款に「英文では ○○ LLC と表示する」と定めることができるが、登記事項ではない。追加しても変更登記は不要。LLC/G.K./Godo Kaisha のどれを使うかに法令上の決まりはなく、名刺・契約書で統一すればよい |
私の定款に英語表記の定めはありません。海外の取引先と契約する予定がなければ、なくても困りませんでした。あとから入れたくなっても、定款変更(総社員の同意)だけで登記は不要です。
第2条 事業目的:エンジニアの準委任・受託開発・コンサルの書き方
3つの要件
私の実例:11項目+附帯事業

エンジニア向けの記載例
| やりたい事業 | 定款の書き方の例 | ポイント |
|---|---|---|
| 準委任(SES)・受託開発 | ソフトウェア及びウェブサイト・アプリケーションの企画、設計、開発、運用、保守、受託及びコンサルティング | 「受託」「開発」「保守」「コンサルティング」が入っていれば準委任も請負も読める |
| ITコンサル | 情報システムの企画、導入及び運用に関するコンサルティング | 経営コンサル全般をやるなら「経営に関するコンサルティング」も |
| 自社サービス・アプリ | インターネットを利用した各種情報提供サービス/ソフトウェア及びアプリケーションの販売 | サブスク・広告収入もこれで読める |
| ブログ・メディア・アフィリエイト | インターネットを利用した広告及びマーケティング事業/ウェブメディアの企画、制作及び運営 | 副業時代のサイト運営を法人に移すなら入れておく |
| 物販・EC | インターネットを利用した通信販売業 | 古物を扱うなら「古物営業」(許可が必要)を別に明記 |
| 研修・講師 | 情報技術に関する教育及び研修 | 研修事業を始めるときに追加登記をしなくて済む |
| 締め | 前各号に附帯又は関連する一切の事業 | 必ず最後に。ただし主たる事業と関連のない事業や許認可業種はこれだけでは足りない |
- SES(準委任)は労働者派遣ではない。実態が準委任なら「労働者派遣事業」を目的に入れる必要はない
- 「労働者派遣事業」は厚生労働大臣の許可が必要な業種。目的に書くと許可業種と見られ、金融機関や取引先から「許可は取っているか」と聞かれることがある
- 準委任と派遣の違い(指揮命令の所在)は準委任と請負の違い・偽装請負とSES契約書のチェック10項目で
事業目的の数は10前後が目安。多すぎると「何の会社か分からない」と見られ、少なすぎると新しい事業のたびに変更登記(登録免許税3万円)が必要になります(合同会社の変更登記の費用と期限)。
第3条 本店所在地:「東京都渋谷区」まででよい理由
定款の本店所在地は最小行政区画(東京23区は区、市部は市、郡部は町村)まででよく、番地は別途「本店所在地の決定書」で決めて登記します。私の定款も「東京都渋谷区」だけです。こうしておくと、同じ区内でバーチャルオフィスを変えても定款変更は不要(本店移転の登記は必要)。区をまたぐ移転なら定款変更+移転登記になります。
本店をどこにするか(自宅かバーチャルオフィスか)の判断は別記事にまとめています。私は設立時からバーチャルオフィスです。
第4条 公告方法:ひとり合同会社は官報で十分
| 公告方法 | 特徴 | ひとり合同会社での評価 |
|---|---|---|
| 官報 | 定款に定めがなければ自動的に官報(会社法939条4項)。登記事項 | これでよい。合同会社には決算公告の義務がないので、官報を選んでも毎年の費用はかからない |
| 日刊新聞紙 | 掲載料が高額 | 選ぶ理由がない |
| 電子公告 | 自社サイトに掲載。決算公告の義務がある株式会社では節約になる | 合同会社は決算公告義務がないのでメリットが薄い。解散・減資などの債権者保護手続では調査機関の費用がかかる |
「官報の公告は1回7万円以上かかる」という話は、株式会社の決算公告の相場です。合同会社が官報を使うのは、解散・資本金の減少など債権者保護手続が必要なときだけです。
第5〜8条 社員・出資・業務執行社員・代表社員:一人のときの定型
| 条 | 定め | 会社法の原則 | 一人会社での意味 |
|---|---|---|---|
| 第5条 社員及び出資 | 氏名・住所・出資100万円・有限責任社員 | 576条。住所は印鑑登録証明書どおりに | 社員の住所は登記簿に載らない。代表社員の住所は載る(住所の公開について)。資本金の決め方は別記事 |
| 第6条 業務執行社員 | 1名を指定 | 定めがなければ社員全員が業務執行社員(590条) | 将来「出資だけの社員」を迎えるなら、業務執行社員を限定しておく意味がある |
| 第7条 代表社員 | 複数なら互選、1名ならその者 | 業務執行社員が複数なら各自が代表(599条)。定款か互選で代表社員を定められる | 「代表社員」は株式会社の「代表取締役」に相当。先方の書類で「代表取締役」と書かれて直してもらうことが何度かあった |
| 第8条 社員の加入 | 総社員の同意で定款変更 | 604条・637条 | 一人でも同意書を書面で残す(税理士・金融機関に出すことがある) |
第9〜10条 退社と相続:一人合同会社の「もしも」の条項
任意退社:法定は6か月前、ひな形は2か月前
会社法606条の原則では、社員は事業年度の終了時に退社でき、その場合6か月前までの予告が必要です。私の定款は「2か月前まで」に短縮しています(同条2項の「別段の定め」)。やむを得ない事由があればいつでも退社できる点は法律どおりです。
社員が死亡すると会社は「解散」する
一人会社では社員が欠けるので解散(641条4号)
社員が欠けたことによる解散は継続できない(642条)
相続人は社員にならず、持分の払戻請求権を相続するだけ
相続人は承継した時点で社員になる(定款変更したものとみなされる)
会社は存続し、相続人が代表社員になれば事業も続けられる
相続人が複数なら権利を行使する者を1人定める(608条5項)

承継条項があるかどうかで、相続のときに「社員の地位(出資持分)」を引き継ぐのか「払戻請求権」を引き継ぐのかが変わり、相続税の評価方法も変わります。ここは税理士に確認する領域です。
第11〜13条 事業年度・計算書類
| 項目 | 私の定款 | ポイント |
|---|---|---|
| 事業年度(第11条) | 毎年2月1日〜翌年1月31日(設立当初) | 登記事項ではないので、変更は定款変更+税務署・都道府県税事務所・市区町村への異動届だけ。法務局の手続きは不要。私はのちに9月決算に変更(決め方は決算月の決め方、9月決算の年間スケジュールは別記事) |
| 最初の事業年度(第13条) | 会社成立の日〜最初の1月31日 | 設立月から1年以内に収める。1期目が短いと均等割が月割になる(1期目の決算) |
| 計算書類の承認(第12条) | 事業年度終了日から3か月以内に作成し総社員の承認 | 法人税の申告期限(原則2か月)と整合。決算書は税理士が作るが、「承認した」記録(社員の決定書)は自分で残す |
| 損益分配 | 定めなし | 定めがなければ出資の価額に応じる(622条)。一人なら全額自分。利益の配当は別記事 |
電子定款にした話:印紙4万円が不要になる仕組み
会社設立時の定款の原本は印紙税法の第6号文書。合同会社は認証不要なので、同じ定款を何通作っても原本1通だけが課税対象(国税庁 質疑応答事例)
紙の原本が存在しないので印紙税がかからない。合同会社は公証役場の認証がないため、電子定款のメリットは実質この4万円
マイナンバーカード(電子証明書)・ICカードリーダー・PDFに電子署名できるソフト。署名後は一切修正できないので、目的・住所・氏名は署名前に見直す
私は会社設立サービス(弥生)で入力→PDF自動生成→提携行政書士が電子署名→自分で法務局へ登記申請。費用はサービスの条件で変わる(会社設立サービスの比較)
出典:国税庁 質疑応答事例「課税される定款の範囲」、法務省 合同会社設立登記申請書の記載例(定款の例文を含む)
設立後の定款の扱い:保管・変更・提出を求められる場面
- 合同会社には、株式会社のような「定款を本店に備え置く」条文がない(会社法31条は株式会社の規定)。それでも原本(電子署名付きPDF)と、変更後の「現行定款」は保管しておく
- 変更したら「総社員の同意書+変更後の定款」をセットで残す。登記が要る変更(目的・商号・本店・公告方法・業務執行社員・代表社員・資本金)と、要らない変更(事業年度・英語表記・内部規定)がある
- 定款の写しを求められる場面:法人口座の開設(銀行により任意〜必須)、融資の申込み、許認可の申請、取引先の与信。PDFをすぐ出せる場所に置いておく(法人口座の審査で用意するもの、公庫の創業融資)
| 定款変更の内容 | 変更登記 | 登録免許税の目安 |
|---|---|---|
| 事業目的の追加・変更 | 要 | 3万円 |
| 商号の変更 | 要 | 3万円 |
| 英語表記の追加だけ | 不要 | — |
| 本店の移転(区をまたぐ) | 要(定款変更+移転登記) | 同一管轄3万円・管轄外6万円 |
| 本店の移転(同じ区内) | 定款変更は不要、登記は要 | 3万円 |
| 公告方法の変更 | 要 | 3万円 |
| 業務執行社員・代表社員の変更 | 要 | 1万円(資本金1億円以下) |
| 事業年度の変更 | 不要(税務署等へ異動届) | — |
| 任意退社の予告期間など内部規定 | 不要 | — |
登録免許税は一般的な整理。詳しくは合同会社の変更登記の費用と期限へ。
よくある質問
まとめ:ひとり合同会社の定款チェックリスト
| チェック | 確認すること |
|---|---|
| □ 事業目的 | 今の事業と3〜5年で始めそうな事業が「開発・受託・コンサルティング」などの語で読めるか。許認可業種は明記したか。末尾に附帯事業の一文があるか。労働者派遣を実態なく入れていないか |
| □ 商号 | 「合同会社」の文字、使える文字、同一住所に同名の会社がないか。英語表記を使うなら統一 |
| □ 本店 | 最小行政区画まで。番地は決定書で |
| □ 公告 | 官報でよい |
| □ 社員・出資・責任 | 氏名・住所は印鑑証明書どおり。有限責任社員の旨 |
| □ 業務執行社員・代表社員 | 1名なら定型でよい。将来の出資者を想定するなら限定 |
| □ 相続人の持分承継 | 「相続人が持分を承継する」の一文があるか。なければ社員の死亡で会社は解散 |
| □ 事業年度 | 設立月から1年以内。あとから変更可(登記不要) |
| □ 電子定款 | 署名前に全文を見直す(署名後は修正不可) |
| □ 保管 | 原本PDFと現行定款、変更の同意書をすぐ出せる場所に |
- ひとり合同会社の定款は14条前後。自分で考えるべきは事業目的・商号・公告・相続人の持分承継の4つ
- 事業目的は明確性・営利性・適法性。エンジニアは「企画・開発・運用・保守・受託・コンサルティング」で準委任も請負も読める。労働者派遣は実態がなければ書かない
- 商号は「合同会社」の文字が必須。英語表記は定款に書けるが登記事項ではない
- 本店は最小行政区画まで。公告は官報でよく、合同会社は決算公告義務がないので費用はかからない
- 相続人の持分承継条項がないと、社員の死亡で会社は解散し継続もできない(641条4号・642条)。一人会社の最重要条項
- 事業年度の変更は登記不要(定款変更+異動届)。電子定款なら印紙4万円が不要
- 定款の備置き義務は合同会社にはないが、原本PDF・現行定款・変更の同意書は保管し、口座開設・融資・許認可ですぐ出せるように

